ブナの森で 温かい冬のひととき

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無垢の白い雪の上に踏み跡があり、二人分の今できたばかりの真新しいスノーシューの跡だ。この跡について今日は歩こう。森を歩くのも久しぶりで、このところ雨が降ったり風が強かったり吹雪が続いていたりして天気のいい日がなかった。前の方たちにならって、湿気のない粉雪を踏む足音でリズムをとりながら、雲の行方を目で追いながらも一時間ほど歩くと汗が滲み出たりする。今日は重く感じる背中のザックをゆすり上げながら、息を切らして雪道を歩いた。
たまに踏み跡から外れ自爆テロっぽいが、深い雪をつい《ジハード》したくなる気分。――軽快のよう……しばらくは虚勢を張ったものの実力が伴わないので停戦しようと兵士風ホフクゼンシンを続けて、ついに白旗をあげた。

――踏み跡って危機管理上、重要……。ソチスノーボードの転倒者を思い浮かべ、体育会系屈強者には、この深雪は微笑み、草食系一見さんには冷酷。どこからか励ましと警告がこの空間に漂いおおう。
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明るいブナの森で、木々はこの厳しい冬の抑圧的な生活を毎年繰り返しているが、いかがお過ごしですかっと訊きたくなる。過酷な日々もあれば平穏な季節もあって、それが自然のサイクルで成り行きにまかせ森の中で調和を図っているのだと声にだしそう、が沈黙して動じない。
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イワガラミ
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イワガラミが冬芽を伸ばし、タムシバは花芽を膨らましてきた。ブナもタムシバも雪深い場所が好みらしい。極寒の土地や暑い土地には生長に不向きと聞く。つまり北海道や九州といった場所が嫌いらしい。ケヤキに似て場所を選り好みする特徴がある。動物のように自分の好きな場所へ移動できない分、この雪国でせめて見守ってあげよう。
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先客の二人の踏み跡は、ノウサギやリス、キツネのように縦横無尽に歩き回ったみたいで情熱的に挑戦したように残っていた。可能性に挑む、不可能でも向かっているよう……。

「尊敬しちゃう」
「……」

昼の暖かい陽気に誘われて、ちょっと長居したようだ。さあって帰ろうとしたところ、ここでよく会う人がやってきたので、少し待って挨拶してからにしようと思った。とってもいい人でこの雪上でいつも「一服いかがですか」と温かい抹茶を点ててくれるのだ。それは穏やかで嫌みがなくて猥雑な動作もなくなめらかな話し方をしてくれる。そんなもんで「あ、どうも……」とため口で答えるのも不謹慎きまわりない。――それもこれも……問題あり、反省!
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青い空に白銀の山体の輪郭が浮かびなめらかな山肌を陽のひかりが照らしている。見上げた空に真っ白な飛行機が飛んでいった。遅れてきた音がやっと耳に届く。飛行機が雲をつくらないとは上空が完全に乾燥しているのだろうか?それとも省エネ飛行、そんなことある……。
柔和な会話のひとときを終え、もう少し向こうまで歩いてみます、と支度をしながら声をかけられたので、私は逆のブナ林をまわって帰ります「じゃーまた」と抹茶のお礼をして観音めいた笑顔を精一杯つくって別れた。
俺もそれなりのマナーを持ちあわせているのだ。会うたびにいつもおもてなしされっぱなし。そろそろ俺の番だとして何をしてあげられるのだろう!オノレの不器用さを嘆く!

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